
・「第1回 AIのべりすと文学賞」の結果が発表されました。私は審査員のひとりとして参加させていただいております。
・私は時雨屋さんの『5分後に探偵未遂』という作品を推しました。現時点だと受賞作を読むことはできないけど、たいへんおもしろかった。
・この文学賞の募集要項は「AIのべりすとを使って執筆した作品」なので、人間によって手直しするのもアリである。というか原理的には全部人間が書いちゃってても判別のつけようがない。そういう状況でどうやって「AIのべりすと文学賞」を選ぶのか、というのは、審査を始める前からそれなりに心配であった。
・ただ、実際に審査をはじめてみるとすぐに「あ、普通におもしろいのを選べばいいんだ」と、ストンと腑に落ちた。極端な話、全体のうち9割を人間が書いちゃってても別にいいと、私個人としては思っている。
・というのも、AIのべりすとの効用はなにも「AIのべりすとが出力した文章を使う」ことだけに出るものではないから。製作者のStaさんはAIをティンカーベルに例えているが、もっと現実的に例えてみれば打ち合わせ相手の編集者なのだと思う。「どうしたらいいっすかねー」といつでも話しかけられる相手がAIだ。そこで出してもらったアイデアを使うかどうかは作家次第なのである。ともかく応募作については、なんらかの形でAIのべりすとが関わっていれば作品に影響を与えているはずなのだ。そう考えれば、10割人間が書いちゃってても、AIのべりすとは創作に寄与したといえる。
・私が推した『5分後に探偵未遂』についても、たぶん作者さん本人による発想やテキストが多量に含まれていると思う。現在の小説AIは構造的な概念を考えるのが不得意だ。たとえば推理小説のトリックとかを考えるのには全く向かない。つまり逆にいえば、人間の作家が考えた構造の内部をAIのべりすととの協業によって満たしていく、という創作が可能であるはずだ。『5分後に探偵未遂』ではそういう手法を用いた雰囲気を感じた(違ったらすみません)。

・AIのべりすとで「情景描写を書き出してくれるテンプレート」を作ってくれた人がいる。こういうのを使うと、状況から描写を生み出してくれる。たとえば、
洋館。夜。墓場。
・と入力したら
窓の向こうに見えるのは、真っ暗な景色だ。夜の闇に沈んだ館の中は、ひっそりと静まり返っていた。窓の外に見える墓地では、白い霧が立ち込めている。それはまるで黒い海のように広がっており、その中に佇む墓石たちの姿を覆い隠していた。館の主人の部屋にある暖炉の中では、ぱちぱちと音を立てて炎が燃え盛っている。
・こんな文章が出てきた。白い霧を黒い海に例えるのが意味不明だが、立ち込める霧が墓石を覆う様子、なんていうのは描写次第でいい感じになりそうだ。内容をそのまんま採用するかどうかはともかく「あ、そういう切り口いいね」という可能性を作り出す装置として、AIのべりすとは既に実用レベルにある。
・つまり人間の「着想」にプラスして、AIが無制限に「切り口」を提示してくれる、というのが現時点での小説執筆AIの強みであると私は考えている。もっとAIが進化して構造的な概念を扱うことができるようになれば、ボタンひとつで名作小説が一冊分出てくる、みたいなことになるのかもしれないけど、今はね。
・「審査するために小説をたくさん読む」という行為を初めてやったけど、かなり不思議な気分になりますね。そして普通に読むのとは全く違う感じ方で小説そのもののおもしろさがわかる(気がする)ようになってくる。



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