「いきなりですけどうちのオカンが死んでしまってね」
「なんやいきなり重いな~、いやそれはご愁傷様です」
「でも、それが妙やねん。警察にはね、オカンは自殺や言われてるねんけど、なんか様子がおかしいねん」
「何がおかしいの?」
「背中に深々と刃物が刺さっとったらしいねん」
「……自殺とちゃうやないか。その状況は完全に他殺やないか。すぐわかるやろそんなもん、警察は何やってるのよ」
「それがわからへんねん」
「何がわからへんの?」
「オカンの死んでた部屋には内側からカギがかかってたらしいねん」
「他殺やないやないか。それは密室やからな。もし他殺なら犯人が中からカギをかける方法がないもんね。自殺で決まりや」
「それがわからへんのよ」
「何がわからへんの?」
「俺も自殺と思ってんけどな、床に血文字で名前が書き残されてん」
「ほな自殺とちゃうやないか。それはダイイングメッセージ言うて死にかけの被害者が文字通り必死の思いで書き残す手がかりなんやから。書かれたそいつが犯人で決まりや」
「俺もそう思ってな、書き残された名前を調べたらな、オカンを過去にこっぴどく裏切った元恋人の名前やねん」
「ほな犯人そいつとちゃうやないか。ダイイングメッセージが正面から犯人を当てたことなんか歴史上ただの一度もないんやから。そいつだけは犯人とちゃうわ」
「でもわからへんねん」
「何がわからへんのよ」
「死体の横にな、何かわからない水たまりが残ってん」
「ほな自殺やないか。『氷』を使ったなんらかの細工で他殺に見せかけようとしてる自殺に決まりやないか。ただの殺人でそこまで凝ったことせんからね」
「でもわからへんねん。実はこれまでにも殺人が起こってて、一番目の死体の横にはロウソクが、二番目の死体の横には風船が添えてあってん」
「ほな自殺とちゃうか~。それは完全になぞらえとるのよ。おそらくは火・空気・水・土の古代ギリシア四元素になぞらえた殺戮ショーの幕が上がっとんねん。このままだと第四の惨劇が起きるのは時間の問題やないか」
「実は第四の殺人はすでに起きたあとやねん」
「じゃあますます自殺とちゃうやないか。一連の殺人を手掛けた殺人鬼がいまもどこかに潜んでんねんそれは。何を迷うことがあるの?」
「でもわからへんねん」
「何がわからへんの?」
「第四の殺人の死体にはやっぱ土がかけてあったんやけどな、そのかけ方がどうも雑やねん」
「ほなやっぱり自殺やないか。何かになぞらえて殺人する犯人には特有の美意識があるんやから。最後の最後の殺人でそんなに詰めの甘いことをするはずがないのよ。そういうのは法則性に気づいた第三者が便乗して模倣殺人をしてると俺は睨んでんねん。やっぱりオカンは自殺で決まりや」
「それがわからへんねん」
「何がわからへんのよ?」
「第四の殺人を見に行ってからな、オカンの死体がある部屋に戻ったら、死体が忽然と消えとんねん」
「ほな自殺とちゃうやないか。オカンは何らかの方法で死体のフリをして発見されることで第四の犯行のアリバイを大胆にも作ろうとしていること必至やねんから」
「でもわからへんねん。だとしたら密室の謎が残るねん」
「そういえばそうやないか。ほなやっぱり自殺やないかもう。序盤のちょっとした矛盾ほどあとになってボディブローのように効いてくるもんなんやから」
「でもな、警察が言うにはな。その屋敷は変わった建築家が主の命令で建てたフルオーダーメイドの家らしいねん」
「ほな密室とちがうかー。その特徴はもう完全に仕掛けがあるやつやねん。建築家が出てきた時点で『仕掛けありますよ』って宣言してるようなものやねんから」
「でもその屋敷は大地主の家系が代々受け継いできた由緒ある屋敷でな、いま住んでるのは大地主の直系の子孫である2人の息子と2人の娘、そしてその子どもが合計5人と使用人が複数おって、オカンは長男の本妻じゃない妾のほうの娘やねん」
「やっぱり自殺とちゃうやないか。オカンには惨劇を起こす理由が片手では数え切れないくらいあるねん。その誰も真面目に読んでない複雑な家系図がまんまオカンの殺意を示しているのよ」
「でもわからへんねん」
「何がわからへんの」
「いまさっき中庭の池でオカンの死体が上がってん」
「ほな自殺やないか。偽装を交えつつ三つの殺人を完遂した末に自分自身の肉体を捧げて儀式を完成させとるんやから。最もやりきれないタイプの真相が今明らかになっとるやないか。今度こそ本当に決まりよ、オカンは真犯人であり、なおかつ自殺したんや」
「わからへんねん」
「この期に及んで何をわからんことがあるの?」
「よくよくオカンのルーツを辿るとな、どうやら双子だったらしいねん」
「ほな自殺とちゃうやないか。沈められてるのはオカンの片割れのほうやないか。この手の事件では双子の似具合がだいぶ過信されとるんやから。おそらくオカンとその片割れは共犯やってんけど最後の最後で裏切られとんのよ。オカンは今ごろ夕日を浴びてなんともいえない切なげな顔してるに決まってるねん。自殺とちゃうやないか」
「でもな、わからへんねん」
「何がわからんのよ」
「いつもこの時刻になると屋敷の上に設置されとる風車が勢いよく回る仕掛けになってるんやけどな、今日に限ってそれが回ってへんのよ」
「ほな自殺やないか。さっきこの殺人は火・空気・水・土の古代ギリシア四大元素になぞらえてると言ったけどもその屋敷に風車があるとなったら話が全然変わってくるねん。それは古代ギリシアの四大元素やなくて仏教における『五大』すなわち地・水・火・風・空を指し示しているってことになるんやから。真犯人すなわちオカンは双子の片割れと共謀して連続殺人を遂行し、片割れもオカン自身もその見立ての一部となって死んでるのは状況証拠から言って間違いないねん。風車が動いてないのは風車にオカンが満足げな顔でぶら下がって惨劇の終幕を告げているからに他ならんのよ」
「わからへんねん。オカンが言うには」
「うん?」
「アンタよく頑張ったねって」
「お前が犯人やないか。どうもありがとうございました」
あとは日記です。



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